海洋細菌群集の水質浄化能を理解する
近畿大学農学部水産学科
水族環境学研究室
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養殖活動は、魚類を飼育するため、大量の餌を投入します。しかしながら、その半分以上もの餌が、有機物として環境に負荷されているという報告もあります。過剰な有機物の負荷が続くと、養殖水域がどんどん悪化し、最終的には、養殖ができないような水域になってしまいます(生態系サービスの劣化)。そのような水域にならないように、適正な範囲において養殖活動を続けて行くことが重要となります。

 環境の持つ水質浄化(海をきれいにする)作用は、物理過程および化学過程、生物過程によって規定されます。「海をきれいにする」ことを「有機物を無機化する」と置き換えると、生物過程を無視することはできません。生物過程のうち、有機物を無機化する役割を担っているのが微生物、とくに細菌になります。

 海洋細菌は、たったスプーン一杯の海水に、なんと106細胞もの膨大な数で存在します。奈良県の人口が、およそ140万人(2011年7月1日現在、奈良県公式HPより)であるので、その人口に匹敵する数の細菌が、たったスプーン一杯にいます。このような厖大な数で存在する細菌群が、環境に負荷された有機物を無機化するという非常に重要な役割を、健気に担っています。

 養殖水域にいる細菌群のうち、「どのような細菌群」が、「どのような有機物」、「どれくらいの有機物量」を、「いつ」「どれくらいの速度」で、「どのような方法」を使って分解・無機化するのか。
 これらの疑問を一つずつ明らかにしていくことで、その水域の持つ水質浄化能について正確に把握することができ、適正な範囲内の持続的養殖活動が可能になるだろう、と考えています。当然、細菌群のみならず、水質(例えば、有機物量、栄養塩量、溶存酸素量、硫化物量など)なども調べています。

これまで取り組んできた卒業研究の例(H23〜H24年度):
  魚類養殖場における自浄能力の鍵を握る細菌種の特定
  和歌山県田辺湾養殖場水域における無機化活性
  海況変化に伴う海底堆積物の硫化物量の変化
  養殖場域における硫化物量の季節変動
  ・・・
これらはほんの一部です。これらの他にも、さまざまな研究に取り組んでいます。いろいろな人からのおもしろいアイデアを積極的に採用し、おもしろい研究を行っています。